【薬の勉強⑧】ウルソ(ウルソデオキシコール酸)を理解する~薬効薬理とその歴史~

【薬の勉強⑧】ウルソ(ウルソデオキシコール酸)を理解する~薬効薬理とその歴史~

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ウルソ(ウルソデオキシコール酸)です。なんとなく「肝臓の薬だよなぁ」と理解している方も多いのではないでしょうか。「どうして効くの?」と聞かれると「、、肝臓の薬だから効くんだよ!」と言いたくなっちゃうのはきっと僕だけじゃないはず。笑 そんなアナタのために薬効を理解すべく情報をまとめます

 

薬効薬理を理解するための基礎知識

勉強して分かったのはウルソのことを理解するためには、基礎知識として胆汁と胆汁酸について整理すると良いということです。これらを理解すると自然とウルソの薬効薬理が分かるようになると思います。簡単にですが情報をまとめます。

胆汁について

胆汁の働きは以下の2つです。

  • 脂肪の乳化
  • 蛋白質の分解

つまり、栄養素の吸収を助けます。胆汁は「肝臓」で合成されており、1日700~1000mL作られています。胆嚢に一時貯蔵・濃縮され、食事の際に十二指腸に排出されます。その構成成分の97%は水です。そのほかに、

  • ビリルビン
  • コレステロール
  • 胆汁酸

などがあります。後述しますが、ウルソ(ウルソデオキシコール酸)はこの胆汁酸の一種です。

胆汁酸について

胆汁酸は「コレステロール」、「リン脂質」と混合ミセルを形成して胆汁に溶存しています。界面活性物質であり、脂肪の吸収を助けます。

胆汁酸も肝臓で合成されます。原料はコレステロールです。肝臓内で生成されるものを「一次胆汁酸」とよび、ヒトでは次の2つが作られています。

  • コール酸(colic acid:CA)
  • ケノデオキシコール酸(chenodeoxycolic acid:CDCA)

これらは腸管に分泌されると、一部が腸内細菌により代謝を受け「二次胆汁酸」が合成されます。

コール酸(CA)からは

  • デオキシコール酸(deoxycholic acid:DCA)

ケノデオキシコール酸(CDCA)からは

  • リトコール酸(lithocholic acid:LCA)
  • ウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid:UDCA)

などが作られます。一次胆汁酸、二次胆汁酸は回腸末端から再吸収され、肝臓に戻るといった「腸肝循環」をしています。

これら胆汁酸は「疎水性」のものと「親水性」のものに分かれます。疎水性の胆汁酸は細胞障害性が強いといった性質があります。ウルソデオキシコール酸は親水性の胆汁酸ですが、健常者の胆汁中に5%程度しか含まれません。

なんらかの理由で肝障害が起こった場合、胆汁の流れが悪くなる「胆汁うっ滞」が起こります。つまり、肝臓に胆汁酸が溜まっていきます。

そうすると、疎水性の胆汁酸の性質である「細胞障害性」によりさらに肝障害が悪化するといった負のサイクルに陥ります。ああっどうしたらいいんだって感じですね。そこで、そう!ウルソの出番なんですよ!!

ウルソの薬効・薬理を理解する!

と、見出しを立ててみたものの、実は薬理作用・作用機序に関しては不明な点が多いとされています。しかし、解明している部分もありますので紹介していきます!

肝臓に対する薬効としては主に以下の3つが挙げられています。

  • 利胆作用
  • 胆汁酸の置換作用
  • 肝細胞と胆管細胞の保護作用

利胆作用

ウルソは肝細胞から胆汁酸を出してくれる利胆作用を発揮します。つまり、胆汁うっ滞を解除してくれます。そのメカニズムは以下のトランスポーターを活性化することであるとされています。

  • BSEP(bile salt export pump)
  • MDR3(multidrug resistance protein 3)
  • MRP4(multidrug resistance-associated protein 4)

BSEPとMDR3は、「肝細胞から毛細胆管」へ胆汁酸・リン脂質を分泌するものです。MRP4は「肝細胞から血液中」へ胆汁酸を排泄します。要は、これらは肝細胞から胆汁酸を出してくれるんですね。ウルソはこれらを活性化してくれるので胆汁うっ滞が治るんですね。

胆汁酸の置換作用

疎水性の胆汁酸はその細胞障害性によって肝臓を傷めつけてしまうのでした。ウルソは親水性でありますが、普段は胆汁酸の5%程度しか存在しません。

しかし、ウルソを使用することで他の胆汁酸と置換され、その組成比率を上げることができます!1日600㎎の経口投与にて組成比率を50%以上に増加させることが分かっています。

細胞障害性を示す疎水性の胆汁酸を追い出すことで肝臓を守ってくれるんですね。

肝細胞と胆管細胞の保護作用

ウルソは「抗炎症作用」、「抗酸化ストレス作用」を持っており、直接的に肝臓を保護する作用も持っています。

炎症性サイトカイン(TNF-α)や炎症惹起物質のmRNAの産生を抑制することで、抗炎症作用を示すことが分かっています。また、抗酸化物質であるグルタチオンの合成酵素活性を高めることで、抗酸化ストレス作用を示します。

ここまでまとめてきて、ウルソってすごい薬だなぁと実感。「肝臓の薬です」の裏にはこんなにも沢山の薬効薬理が隠されていました。しかも、未だ判明していない作用があるという。末恐ろしい、いや、素晴らしい薬剤ですね!

こうやって色々と調べているうちにウルソには長い長い歴史があることが分かりました。

ウルソの歴史

実はウルソは日本で発見~合成された薬なのです。すごいなぁと感心してしまいましたのでウルソの歴史を紹介したいと思います。

薬効の起源と日本への伝来・普及

その歴史はもの凄く古く、起源は7世紀の中国の書物「唐本草(とうほんぞう)」に登場する生薬「熊胆(ユータン)」までさかのぼります。字のごとく、熊の胆嚢胆汁を乾燥させたものです。

これが奈良時代に遣唐使によって日本へ伝来されました。平安時代には金や米と交換されるほど極めて貴重な生薬として珍重されていたとのことです。江戸時代に漢方医学の大家、後藤艮山(ごとうこんざん)によって民間薬として広く普及するようになりました。本邦では「熊の胆(くまのい)」として広まっています。

熊胆の薬効成分はウルソデオキシコール酸だったわけですが、実はこれシロクマには存在せず、ツキノワグマに多く含まれるとのことです。このことも日本と熊胆との深い関わりがうかがえます。

成分の発見と合成、臨床応用

さて、古くからその薬効が認めれられ、普及していた熊の胆ですが、ついにその正体が判明します。1927年に岡山大学の正田らにより薬効成分が単離・結晶化され、1936年に同じく岡山大学の岩崎らにより構造式が解明されます。

そして、1954年に東京工業大学の金沢、島崎らにより効率的化学合成法が確立されます。発見から約30年で合成ができるようになったのですね。日本人すごい。その後、1962年にウルソ錠50㎎が発売されました。商品名はラテン語のウルサス「熊」からきているとのことです。

販売当初はなかった適応も、エビデンスが蓄積され、1978年には「外殻石灰化を認めないコレステロール系胆石の溶解」、1999年には「原発性胆汁性肝硬変(PBC)における肝機能の改善」、2007年には「C型慢性肝疾患における肝機能の改善」と適応追加されたのでした。

判明していない作用機序もありますので、今後も何かしらの適応が追加される可能性を秘めている薬剤だと思います。

まとめ

さて、本稿ではウルソの薬効薬理、それを理解するための基礎知識(胆汁・胆汁酸)、歴史についてまとめてみました。少しでも薬の理解に役に立てて頂けたら幸いです。

複雑な薬効だから、僕はもしかしたら「肝臓の薬です!」の説明の仕方に変わりがないのかもしれませんが。苦笑

最後まで読んでくださりありがとうございました。では、また次回。

参考資料

  • ウルソ錠50㎎、100㎎ 添付文書
  • ウルソデオキシコール酸~現代人の肝機能改善に恩恵~,Medicament News 第2125号
  • 適応外処方箋の読み方 第72回 原発性胆汁性肝硬変,月刊薬事 2016(Vol58 No.8)