【薬の勉強⑦】ゾフルーザ~他の抗インフルエンザ薬との比較を含む~

【薬の勉強⑦】ゾフルーザ~他の抗インフルエンザ薬との比較を含む~

今回はこちらの情報を

ゾフルーザ製剤写真

ゾフルーザ(バロキサビル マルボキシル)です。2018年3月に塩野義製薬から発売された抗インフルエンザウイルス剤です。3月に発売されたとあって、昨シーズンはあまり処方をみかけなかったのですが、今シーズンは大活躍?の予感がしています。さっそく情報をまとめてみます。

ゾフルーザの効能・効果、薬効・薬理

効能・効果は一つです。

①A型又はB型インフルエンザウイルス感染症

「インフルエンザ」のお薬ですね。

ここでインフルエンザの増殖機構について簡単にまとめておきます。

インフルエンザウイルスの構造と、感染・増殖過程

図 インフルエンザウイルスの構造と、感染・増殖過程(インフルエンザ予防から治療までのホント,薬剤師が知るべきインフルエンザのポイント,月刊薬事2018.10より)

インフルエンザウイルスの感染・増殖は以下の過程をたどります。

①吸着⇒②侵入⇒③膜融合⇒④脱殻⇒⑤複製⇒⑥発芽⇒⑦遊離

エンベローブ表面のヘマグルチニン(HA)が、気道の細胞表面のシアル酸レセプターに結合する。(①吸着)ウイルスが細胞内に入り込み、ウイルスRNAが細胞内に放出される。(②侵入⇒③膜融合⇒④脱殻)RNAが細胞核に移動し、ウイルス由来のRNAポリメラーゼによりウイルスのメッセンジャーRNA(mRNA)が合成される。mRNAにより子孫ウイルスに必要な蛋白質が複製され、ウイルスが増殖する。(⑤複製)増殖したウイルスが、ノイラミニダーゼ(NA)で細胞のレセプターとウイルスの結合を切り、周囲に広がる。(⑥出芽⇒⑦遊離)

これまで多く使われてきたタミフル(オセルタミビル)などは、ノイラミニダーゼを阻害しウイルスの増殖を抑えます。一方、ゾフルーザはRNAポリメラーゼを阻害することでウイルスの増殖を抑えます。つまり、タミフル等よりも早い段階で薬効を発揮します。

インフルエンザウイルスのRNAポリメラーゼは3つのサブユニット(PA、PB1、PB2)から構成されていて、ゾフルーザ(バロキサビル)は、PAのキャップ依存性エンドヌクレアーゼを阻害することでその働きを邪魔します。

キャップ依存性エンドヌクレアーゼは人の組織にはないため、ゾフルーザの安全性は高いと考えられます。

副作用は下痢が100人に1~2人出現するといった具合です。(添付文書より)

成人及び 12 歳以上の小児を対象とした臨床試験における安全性 評価対象例 910 例中,臨床検査値の異常変動を含む副作用は 49 例(5.4%)に認められた。主なものは,下痢 12 例(1.3%),ALT(GPT)増加 8 例(0.9%)であった。(承認時)

12 歳未満の小児を対象とした臨床試験における安全性評価対象 例 105 例中,臨床検査値の異常変動を含む副作用は 4 例 (3.8%)に認められた。主なものは,下痢 2 例(1.9%)で あった。(承認時)

ゾフルーザの用法・用量

ゾフルーザは年齢と体重によって投与量が異なります。

〈成人及び12歳以上の小児〉

体重80㎏以上:80㎎を単回経口投与

体重80㎏未満:40㎎を単回経口投与

〈12歳未満の小児〉

体重40㎏以上:40㎎を単回経口投与

体重20~40㎏未満:20㎎を単回経口投与

体重10~20㎏未満:10㎎を単回経口投与

小児でも体重が10㎏以上あれば使用可能です。

使用上の注意としては

本剤の投与は,症状発現後,可能な限り速やかに開始することが望ましい。[症状発現から 48 時間経過後に投与を開始した患者における有効性を裏付けるデータは得られていない。]

インフルエンザウイルスは感染後48時間が増殖のピークとされています。増殖を防ぐ薬ですから、早く投与した方がよいに決まっていますね。

さて、用法用量で注目すべきは「単回投与」であることです。薬物動態をみてみるとその理由が分かります。

ゾフルーザの薬物動態と構造式(分子量)から用法について考える

健康成人男性を対象にした薬物動態パラメータがこちら

薬物動態パラメータ

グラフがこちら

活性体の平均血漿中濃度推移

まず、注目すべきはT1/2(半減期)が90時間以上あるということです。ものすごく長い半減期なので単回経口投与で十分なんですね。

つぎに気になる点は、空腹時と食後投与時でCmax、AUCに差があることです。食後投与では空腹時投与と比べ、Cmaxが48%、AUCは36%減少していたとのことです。

結構差がありますね。

では、用法は空腹時投与なのか?というと、そうではありません。なんでかなぁ?と添付文書をみてみると以下のような記載がありました。

In vitro ウイルス増殖抑制効果

A 型及び B 型インフルエンザウイルスの実験室株又は臨床分離 株(ノイラミニダーゼ阻害薬に対する感受性低下を示す NA/ H274Y 変異株を含む)を感染させた MDCK 細胞(イヌ腎臓由来株 化細胞)において,バロキサビル マルボキシル活性体はウイルス増殖抑制効果を示した。〔ウイルス力価を 1/10 に抑制する 濃度(EC90)は,A 型で 0.46~0.98nmol/L,B 型で 2.21~ 6.48nmol/L であった。 〕

つまり、6.48 nmol/L 以上の濃度があればA型もB型もやっつけられそうってことですね。当然ながら、作用機序が異なるのでウイルスがノイラミニダーゼ阻害薬の耐性(H274Y)を持っていても問題ないです。

先ほどの血中濃度推移のグラフを見てみると、ゾフルーザの活性体は二相性の薬物動態を示します。空腹時も食後投与時も消失相は投与約12時間後から始まり、食後投与であればその時点の血中濃度は約40ng/mLでしょうか。上記の抑制効果の単位はモル濃度(nmol/L)なので、分子量をみてみます。

バロキサビル マルボキシルの分子量は571.55です。

構造式はこちら

構造式と活性代謝物

ゾフルーザはプロドラッグであり、小腸、血液、肝臓中のエステラーゼによって活性代謝物となります。その際、赤枠の部分がはずれて「水素」(H)になります。

ですので、活性代謝物の分子量は、571.55 - 89(赤枠)+ 1(水素) ≒ 484となります。

消失相は40ng/mLくらいでしたから、この時のモル濃度は、

40 ÷ 484 ≒0.083 nmol/mL≒83 nmol/L と計算できます。

お?ということは、A型もB型もやっつけられる6.48 nmol/L 以上の濃度を十分に超えています。90時間経過しても半分の41.5 nmol/Lですから余裕で抗ウイルス効果を発揮しそうです。オーバーキル状態。笑

だから、食後投与でも空腹時投与でも薬効に問題はないんですね。

いつ飲んだっていい!今すぐ飲もう!と説明してOKですね。

腎障害・肝障害時の投与量と薬物相互作用について

腎排泄型の薬剤であるためタミフルは腎機能障害時に投与量調節が必要ですが、ゾフルーザはその殆んどが糞中排泄の薬剤であり、腎機能・肝機能障害時の投与量調節は必要ない薬剤です。(重度の肝機能障害患者は慎重投与)

薬剤の排泄について(添付文書より)

 健康成人男性 6 例に[14C]-バロキサビル マルボキシル 40mg を 空腹時単回経口投与したとき,投与された放射能の 80%及び 14.7%がそれぞれ糞中及び尿中へ排泄された。投与量の 3.28% が尿中にバロキサビル マルボキシル活性体として排泄され た 4)。(外国人によるデータ)

肝機能障害患者への投与について(添付文書)

中等度肝機能障害患者(Child-Pugh 分類 B)及び肝機能正常者 各 8 例にバロキサビル マルボキシル 40mg を空腹時単回経口投 与したとき,中等度肝機能障害患者での Cmax 及び AUC0-inf は, 肝機能正常者のそれぞれ 0.80 倍及び 1.1 倍であった 4)。(外国 人によるデータ)

また、薬物相互作用ですが、添付文書上に併用禁忌・注意の薬剤が挙げられていません。ゾフルーザ自体がP-糖蛋白の基質であり、若干のCYP阻害作用とP-糖蛋白・BCRP阻害作用を有するようですが、データを見てみると、

薬物動態に及ぼす併用薬の影響

併用薬の薬物動態に及ぼすバロキサビル マルボキシルの影響

これくらいの変化量であれば先ほどの血中濃度オーバーキル状態だったことも考えると問題ないと考えます。

大変使い勝手の良い薬剤ですね。

ゾフルーザの臨床効果

さて、ここからは実際の効果はどの程度か見ていきたいと思います。

まずはこちら

12歳以上65歳未満患者における罹病機関

ゾフルーザは服用すると、なにもしないよりも1日(26.5hr)早くインフルエンザ症状を治すことができます。

タミフル(オセルタミビル)と比べてみると

20歳以上65歳未満患者における罹病機関

効果に差はないようです。どちらも優秀な薬ってことですね。

もうすこし細かくみていくと

20歳以上65歳未満患者におけるウイルス力価に基づくウイルス排出停止までの時間

ウイルス排出停止までの時間はゾフルーザの方がタミフルよりも早いようです。(48hr)

服用している方にとってどちらを選択しても効果に差はないですが、「ウイルス排出を止めて周囲に感染させにくくさせる」といった点ではゾフルーザの方が良いかと思います。

ゾフルーザと他の抗インフルエンザ薬との比較

他の抗インフルエンザ薬との比較を表にまとめます。

抗インフルエンザ薬比較表

※ゾフルーザの妊婦への使用については現在詳細不明。今後の検討課題

インフルエンザ予防から治療までのホント,抗インフルエンザ薬の特徴と使い方,月刊薬事2018.10より引用改変)

ゾフルーザは効果は高くて、ウイルスを速やかに排出停止でき、耐性株(H275Y)にも使用できて、腎障害・肝障害時も投与量調節は不要で、服用が楽な薬ではありますが、妊婦への使用は詳細が不明なので現在は選択できません。(添付文書「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」)また、授乳婦については添付文書上に「服用を避けさせること」と記載されていますので使用できません。

一方、従来の薬たちは情報の蓄積によって妊婦、授乳婦への使用は可能だと考えられています。

「産婦人科診療ガイドライン産科編2017」では、妊婦インフルエンザ症例に対するオセルタミビル、ザナミビルについては特に制限を必要とするような副作用は認められず、投与の有益性が危険性を上回ると結論されています。

また、すべての抗インフルエンザ薬は添付文書上では授乳を避けさせるとの記載がありますが、「母乳とくすりハンドブック 改定第3版」によると、母乳への移行性が低いことなどからオセルタミビル、ザナミビル、ラニナミビル、ベラパミルは授乳中に使用可能だとしています。

現状、妊婦・授乳婦に対してはゾフルーザ以外の抗インフルエンザ薬を選択することになりそうです。

あと、新薬なだけあってちょっと薬価は高いですね。3割負担で約1500円ってとこです。

ゾフルーザの耐性について

ここまでの情報をまとめてみると、「ゾフルーザええやん」って思うのですが、一つ今後の情報に注意しなければならないことがあります。耐性についてです。

12 歳未満の小児を対象とした国内第Ⅲ相臨床試験において,本剤が投与された患者で,投 与前後に塩基配列解析が可能であった77 例中 18例(いずれもA 型インフルエンザウイル ス感染症患者)にバロキサビル マルボキシル活性体の結合標的部位であるポリメラーゼ 酸性蛋白質領域のI38のアミノ酸変異が認められた。

成人及び12歳以上の小児を対象とし た国際共同第Ⅲ相臨床試験において,本剤が投与された患者で,投与前後に塩基配列解析 が可能であった 370 例中36例(A 型インフルエンザウイルス感染症患者)にI38 のアミノ 酸変異が認められ,そのうち1 例はA 型及びB型インフルエンザウイルスの重複感染患者 で,両型においてI38 のアミノ酸変異が認められた。

また,いずれの臨床試験においても, 本剤投与中に I38 のアミノ酸変異を検出した患者集団では,本剤投与から 3 日目以降に一 過性のウイルス力価の上昇が認められた。

ゾフルーザ 添付文書より

ポリメラーゼ酸性蛋白質領域の I38 アミノ酸変異の有無別のウイルス力価の推移

耐性を持った場合、投与3日目あたりからフワっとウイルス増えてます。しかし、上昇しきることなく、ほどなくして低下しています。

どうやら、変異株の増殖能は低いようです。

なお,アミノ酸変異ウイルスは培養細胞において増殖能の低下が認めら れた。

インタビューフォームより

なので、インフルエンザが復活して困るってことはないと思います。しかし、結構な割合(77 例中 18例≒23%、370 例中36例≒10%)で変異株が出ているようなので今後の情報に注意が必要と考えます。

まとめ

本稿をまとめると

  • ゾフルーザ(バロキサビル)は、PAのキャップ依存性エンドヌクレアーゼを阻害することでRNAポリメラーゼの働きを邪魔する。結果、ウイルスの増殖を抑える。
  • キャップ依存性エンドヌクレアーゼは人の組織にはないため安全性は高い。
  • ウイルスの増殖を防ぐ薬なので、早く投与した方がよい。
  • 空腹時と食後投与時でCmaxAUCに差があるが、どちらでも薬効に問題はない。
  • 腎機能・肝機能障害時の投与量調節は不要。(重度の肝機能障害患者は慎重投与)
  • 添付文書上、併用禁忌・注意の薬剤はない。
  • 服用すると、なにもしないよりも1日(26.5hr)早くインフルエンザ症状を治すことができる。タミフルとその効果に差はない。
  • ウイルス排出停止までの時間はゾフルーザの方がタミフルよりも早い。
  • 現状、妊婦・授乳婦に対しては他の抗インフルエンザ薬を選択することになる。
  • 耐性について今後の情報に注意する必要があると思われる。

さて、今回はここまで。

最後まで読んでくださりありがとうございました。では、また次回。

参考資料

  • ゾフルーザ 添付文書&インタビューフォーム
  • インフルエンザ予防から治療までのホント,月刊薬事2018.10