絨毛性疾患と侵入奇胎に対する抗がん剤

絨毛性疾患と侵入奇胎に対する抗がん剤

今回は絨毛性疾患と侵入奇胎に対する抗がん剤について学んでいきたいと思います。さっそく情報をまとめます。

絨毛性疾患とは?

妊娠に関連して起きる腫瘍性病変です。胎盤の大部分を占める「絨毛」と呼ばれる組織に発生し、絨毛を構成する栄養膜細胞(トロホブラスト)の異常増殖をきたします。これらは「絨毛性疾患取り扱い規約 第3版」において次の6つに分類されています。絨毛性疾患とはこれらの総称です。

  • 胞状奇胎(hydatidiform mole)
  • 侵入奇胎(侵入胞状奇胎)(invasive mole)
  • 絨毛がん(choriocarcinoma)
  • 胎盤部トロホブラスト腫瘍(placental site trophoblastic tumor:PSTT)
  • 類上皮性トロホブラスト腫瘍(epithelioid trophoblastic tumor:ETT)
  • 存続絨毛症(persistent trophoblastic disease)

大きく分けると異常妊娠の一つである「胞状奇胎」、胞状奇胎後に発生する「侵入奇胎」および悪性腫瘍である「絨毛がん」の3つに分けられます。

原因と発生頻度

胞状奇胎の原因は妊娠成立時の精子と卵子の受精の異常です。この異常が起こる理由は不明で、発生原因は明らかではありません。発生頻度は約500妊娠に1回とされており、高齢(40歳以上)になるとやや発生率が高くなると言われています。親から子へ遺伝する病気ではなく、胞状奇胎を経験した方がもう一度胞状奇胎になる確率は約2%とされています。

胞状奇胎妊娠のうち、10%-20%は侵入奇胎を発症し、1-2%が悪性の絨毛がんへ移行すると言われています。

稀に正常妊娠から突然、絨毛がんを起こす場合もあるとされていますが、基本的には胞状奇胎が発症して、その後一部に続発症が起き、その続発症の多くが侵入奇胎で、ごく一部が絨毛がんへ進行するといった疾患です。

治療方法

胞状奇胎の治療は流産と同様の子宮内容除去手術(胞状奇胎除去術)が施行されます。その後、定期的な通院にて妊娠性ホルモンであるhCGの値をチェックしていきます。この値が下がらない場合は侵入奇胎や絨毛がんの可能性があり、それらの場合は抗がん剤を用いた化学療法が行われます。

使われる抗がん剤とその効果

侵入奇胎、絨毛がんともに抗がん剤が非常に良く効きます。

侵入奇胎にはメトトレキサート(MTX)またはアクチノマイシンD(ACT-D)による単剤療法が行われます。初回治療における寛解率(intact hCGの値が0.5~1.0 mIU/mL、 total hCGが1.0mIU/mL以下に低下)は60~90%で、その後の治療を含めては寛解率ほぼ100%とされています。しかし、2~6%は再発の可能性があります。

MTXとACT-Dはどちらも選択できるのですが、初回化学療法として国内で最も汎用されるレジメン(抗がん剤)は、MTXの5日間筋肉内投与です。他にもMTX&ホリナートカルシウム療法やWeekly MTX療法などのレジメンがあります。施設ごとに設定されるレジメンは異なりますが、ACT-Dは副作用に脱毛があることに対し、MTXは脱毛の副作用が少ないことからMTXが初回治療に選ばれることが多くなっています。

化学療法を施行後もhCG値が上昇する場合、あるいは2~3コースで十分な下降が得られない場合は薬剤抵抗性と判定し、投与薬剤あるいは投与法が変更されます。多くの場合、最初に使った薬剤(MTX or ACT-D)と違う薬剤がセカンドラインのレジメンとして選択されます。

さらに、薬剤抵抗性あるいは副作用のため薬剤変更が必要な場合にはエトポシド単剤療法、エトポシドとアクチノマイシンDの併用療法、或いは、絨毛がんに使用する多剤併用療法が選択されます。寛解後、再発した場合も絨毛がんに対する治療が行われます。

絨毛がんにはメトトレキサート(MTX)またはアクチノマイシンD(ACT-D)エトポシドを含む多剤併用療法が行われます。初回治療における寛解率は約80%です。再発率は6.9~35%と報告されています。

寛解を得られたあとは、再発を防ぐため追加化学療法が行われることが一般的で、侵入奇胎の場合は1~3コース、絨毛がんの場合は3~4コースの追加化学療法が行われます。

メトトレキサート、アクチノマイシンDの副作用

MTXの主な副作用は肝機能障害、口内炎、皮疹であり、骨髄抑制(白血球減少、貧血、血小板減少)脱毛、悪心・嘔吐は比較的少ないとされています。

ACT-Dの副作用は悪心・嘔吐、脱毛、骨髄抑制、血管外漏出による皮膚壊死などがあるとされています。

以下の報告の副作用を見てみると

Actinomycin D Versus Methotrexate-Folinic Acid as the Treatment of Stage I, Low-Risk Gestational Trophoblastic Neoplasia A Randomized Controlled Trial (Int J Gynecol Cancer 2009;19: 985-988)

アクチノマイシンDとメトトレキサートの副作用

ACT-Dは脱毛と口内炎が、MTX-FAは肝機能障害が特徴的な副作用であることが分かります。

脱毛は治療開始1~3週間で起こり始め、個人差はありますが治療終了後、3~6か月でほとんど回復します。口内炎はこまめにうがいや歯磨きをして口腔内を清潔にしておくと予防ができます。特にACT-Dの治療を受ける際は口腔内の清潔保持を心掛けるとよいでしょう。

まとめ

本稿をまとめますと

  • 絨毛性疾患とは妊娠に関連して起きる腫瘍性病変で、大きく分けると「胞状奇胎」、胞状奇胎後に発生する「侵入奇胎」および「絨毛がん」の3つに分けられる。
  • 胞状奇胎の原因は妊娠成立時の精子と卵子の受精の異常。この異常が起こる理由は不明で、発生原因は明らかではない。
  • 侵入奇胎や絨毛がんの場合は抗がん剤を用いた化学療法が行われる。その効果は非常に高い。
  • 侵入奇胎にはMTXやACT-Dが用いられる。寛解率はほぼ100%。
  • MTXはACT-Dに比べて脱毛の副作用が少ないが、肝機能障害の副作用に注意が必要。

今回はここまで。最後まで読んで下さりありがとうございました。

ではまた次回。

参考文献

  • 子宮体がん治療ガイドライン2013年版 第8章 絨毛性疾患の治療 日本婦人科腫瘍学会
  • 絨毛性疾患に対する治療評価法(hCG測定) 産科と婦人科・第82号・増刊号
  • がん専門・認定薬剤師のためのがん必須ポイント 第3版 じほう
  • Actinomycin D Versus Methotrexate-Folinic Acid as the Treatment of Stage I, Low-Risk Gestational Trophoblastic Neoplasia A Randomized Controlled Trial (Int J Gynecol Cancer 2009;19: 985-988)