【論文】睡眠導入剤と転倒率の関係性~再転倒患者に対するエスゾピクロンへの変更の有用性~
- 2018.06.25
- 論文

睡眠導入剤は持ち越し効果やふらつきに伴う転倒や骨折のリスクを増大させることが報告されています。また、一度転倒を起こした患者は再度転倒を起こす確率が高いことが知られています。今回の論文は、睡眠導入剤をエスゾピクロンへ変更することが再転倒率を減少させると示しています。内容を簡単にですが記載します。
【要旨】
①転倒率と睡眠導入剤の用量に相関があることが明らかになった。
②睡眠導入剤別の転倒率を調査すると、エスゾピクロンの転倒率が最も低かった。
③転倒した患者に対し、睡眠導入剤をエスゾピクロンへ変更したところ転倒率が非変更群に比べて減少した。
【方法】
・4年間の入院患者が調査対象。
・医療事故発生報告書を基に、転倒の理由、睡眠導入剤内服の有無等を調査。
・転倒率は(転倒件数)/(延べ入院患者)×1000で算出。
・睡眠導入剤別の転倒率は(転倒患者数)/(処方患者数)×100で算出。
・調査対象の睡眠導入剤はブロチゾラム、トリアゾラム、フルニトラゼパム、ニトラゼパム、クアゼパム、ゾピクロン、ゾルピデム、エスゾピクロンとし、使用頻度上位5品目に対し詳細に解析。
・睡眠導入剤の用量は、ジアゼパム換算(DAP換算)(ジアゼパム5㎎=ブロチゾラム0.25㎎=ゾルピデム5㎎=ゾピクロン7.5㎎=トリアゾラム0.25㎎=エスゾピクロン2.5㎎)を行い比較。
・睡眠導入剤単剤で投薬されている患者を解析対象とした。
【結果】
・転倒事故の原因の一つとして睡眠導入剤が挙げられていた(9.3%)
・転倒患者417名中379名(90.9%)に睡眠導入剤が処方されていた。
・非転倒患者では5512名中1693名(30.9%)に睡眠導入剤が処方されていた。
・各睡眠導入剤間の患者背景(年齢、合併症とその治療薬、DAP換算)に差はなかった。
・睡眠導入剤別の転倒率はトリアゾラム11.8%)、ゾピクロン(11.2%)、ゾルピデム(7.4%)ブロチゾラム(6.7%)エスゾピクロン(2.9%)だった。
・転倒した患者に対し、睡眠導入剤をエスゾピクロンへ変更したところ転倒率が非変更群に比べて減少した。(23.3% vs 28.7% p<0.05)両群の患者背景に差はなかった。
・変更群と非変更群で入院期間に差があった(73.9日 vs 84.0日 p<0.05)
【考察】
・ゾピクロンとその光学異性体であるエスゾピクロンでの転倒率の差は臨床用量の違いがある。これが結果の要因の一つ。(7.5~10㎎ vs 1~2㎎)※ゾピクロン7.5㎎=エスゾピクロン2.5㎎
・低用量での使用が転倒率の相違につながった。
・また、エスゾピクロンはGABAa受容体のなかの睡眠、抗不安、筋弛緩作用を司るα2、α3に親和性が高く、一方、ゾピクロンは鎮静、催眠を司るα1や筋弛緩作用や記憶・学習を司るα5受容体に親和性が高いといった受容体に対する親和性の違いが転倒率の差に繋がっていると考える。
・さらに、エスゾピクロンの筋弛緩作用は臨床用量では出現しにくいことが報告されていることも転倒率が低い要因の一つと考える。
・転倒要因は薬剤以外に「栄養状態」、「筋肉量」、「環境定期な要因(スリッパ、靴下の使用、ベッドサイド環境不備)」があるが、アルブミン値、筋肉量の指標であるFunctional independence measure(FIM)効率、転倒転落アセスメントシートにも、変更群、非変更群で差はなかった。
・再転倒は入院期間延長のリスク因子の一つであり、再転倒を予防することは医療費削減に貢献できる可能性がある。
【感想】
入院患者さんは眠剤が欲しいとよく言われます。睡眠導入剤の選択も大事ですが、使用により転倒のリスクもあるんだよとそれとなく説明するのも大事かなと感じました。
さて、本日はここまで。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
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